鬼束ちひろ
鬼束ちひろInterview
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-VOL.1(2000年1月15日発行)

鬼束ちひろは、わかりやすい。自分が本当に興味のあることにしか興味がないし、本人が言うように「不器用」な性格だから、興味のないことを興味があるようにサービスしてしゃべったりできない。
興味のある話題になると目がとたんに輝き、一生懸命しゃべり、興味のないことには一言返事でおしまい。鬼束ちひろが最も、興味のある対象は、たぶん、鬼束ちひろという自分自身も含めた「人間」。
モットーは「やられたら、やりかえす」でも、それは「いいことをされたら、いいことをしてかえす」という意味でもあるそう。好きな言葉は、疾風怒涛。自分の一番知って欲しいところってどんなところ?という質問には、「わたし、正直だから、言わなくてもバレる」



詩を書くことについて


―いつから詩を書きはじめた?
鬼「一番最初に書いたのは、小4の時。夏休みの課題で、自由研修というのがあって、一日ひとつスケッチブックに詩を書いていって、夏休みが40日くらいあるんで、毎日書いていって、それが最初。」

―その詩って、今みたいな詩だったの?
鬼「いや、全然、今の作風とはちがって、子供らしい、『ひまわり』とかいうタイトルの詩(笑)。」

―そうか、椅子を蹴り倒したりしないんだ。
鬼「うん、まどみちお、みたいな詩だった。」

―ひらがなの詩みたいな感じ?
鬼「うん。でも、これだ! と思った詩が書けたのは、中3のとき。内容はもう忘れちゃったど、その詩ができて、詩ってきれいごとでまとめないで、心が入った方が生々しくて、きれいにできるんだ、と思った。それからもう開花して、詩にはまっていったんだと思う。」

―自分が感じたことを忠実に飾らずそのまま言葉にすれば、それが詩になるってことかな?
鬼「最初は感じているものから書こうと思って、3行くらい書いたら、いろんなものがどんどん自分の中から生まれてきて、もうとりとめもなく前へ進む。」

―最初の3行はひらめきなの?
鬼「詩を書こうかなと思うときは、だいたい、こんな感じかな、こんな感じかなって書いていくんだけど、イメージがふくらんでくると、後は、最初の3行より、どんどん、よくなる、言葉が無意識に出てくる。」

―書いてる言葉に乗っかっていく感じ?
鬼「うん。」

―詩を書くことによって解放されたりするのかな?
鬼「いや、詩ではできない、歌を歌うようになってから解放されるようになった。」

―その中3のときの詩は今も持ってるの?
鬼「全部、処分した。引っ越しのとき、全部燃やしたんです。」

―けりをつけようと思った?
鬼「いや、単に恥ずかしくて。」

―内容的には、どんな感じのもの?
鬼「ストイック、自虐的。」

―さしさわりなければ、その内容を聞きたいんだけど...学校のこととかかな?
鬼「学校のことも書いたし、恋愛で傷ついたことも書いたし、自分の存在価値、っていうものも書いたし、哲学的なことも書いたし、いろんなものを書いた。」

―自己発見みたいな感じ?
鬼「ああ、それが近いですね。自分で書いた詩を読み終わった後に、自分がこんなことを考えてるのかってわかる感じ。」

―恋愛とかってさ、中学校くらいから感じるものなの?
鬼「わたしが初めて男の人とつきあったのは、中1のときだけど、わたしは、そんなに恋愛にのめり込むタイプじゃないから。よく友だちとかから、ちひろはクールだとか言われるけど、ほんとに、死ぬほど好きとか思ったことないから。でもまあ、男の人とのつきあいで経験することとかは面白かったり、ためになったりするし。」

―哲学的というのは?
鬼「神とか、そんな感じで、現実的でない部分。分析的な詩。あと、物語も書いたことがある。あるひとりの少女がいて、その子が、どうしてわたしは生きているのか、考えて旅に出る。海やいろんな自然を旅するうちに、そこで生まれる思いとかを書いていった、よく覚えてないけれど。今、歌にした 70曲の、その3倍くらいの詩はあった。ノートにまとめて、暇があれば書いてた、自分を浄化するようなことはしてた。吐き出すことはしてた。」

―本とかは読む方なの?
鬼「ぜんぜん。漫画くらい。」

―じゃあ、詩の言葉ってどこから生まれてくるの?
鬼「わたしだけじゃないと思うけど、人間には心情とか、感情とかあるじゃないですか? それに合う言葉はないと思うんですよ。『悲しい』っていう言葉を書くでしょ? でも、悲しくはないんですよね。似てるから、その『悲しい』という言葉を引用させてもらう。もっとモヤモヤしてると思うし、言葉では表わせない。それに似た言葉を探そうとするから、いろんな言葉が試されるんですけど。」

―それで、その詩を伝えるために、歌ってるの?
鬼「わたしは言葉というものを自分では重要にしてないんです。みなさんは私の詩がいいとか言ってくださるけど、感情に忠実になって作ってるだけですから。」

―歌を歌いはじめたのはいつ? 詩を書くより前なの?
鬼「自分の中では詩の方がはやい。歌はテレビで流れてるようなふつうのを、みんなでカラオケで歌うみたいな感じで。でも、衝撃的だったのはアラニス。地元のローカルテレビがアーティスト紹介をやってて、テレビで見てて、アラニスのプロモーションビデオが流れたとき、わたし、もう尊敬するんじゃないんですよ。似てる、なんですよ。この人はぜったいわたしに似てると思ったんですよ、で、CD買って詩を読んだら、ちょっと似てたんですよね、わたしに。内容はちがうけど、根本的な部分がとても似てると思ったんですよ。」

―ふつうはさ、プロとして音楽をやる人って、高校時代にバンドやってたり、する人が多いじゃない、そういうのはやってなかったの?
鬼「わたしが他のアーティストと違うのは、わたしは暗闇生活者なんですよ(笑)。」

―ひとりでやってるって意味?
鬼「そうそう、悶々としたところで、存在価値とか、わたしが歌うことの意味とか考えて、やってきた。」

―歌うことの意味って、自己表現ってこと?
鬼「うん、自己表現はやってると思う。あとは、たぶん使命感かな。」

―使命感っていうのは?
鬼「人間の心にあるモヤモヤ、言葉では言い表せないものを外側に出して、気づかせてやること。たとえば、この前、2才の女の子がさらわれて、殺された事件があったじゃないですか?テレビで容疑者の供述とかを聴いてると『言葉に言い表せない葛藤があった』って。そういう葛藤? その人を弁護するわけじゃないけど。そういうものをわたしがいろんな人に気づかせてあげたい、気づかせてあげなきゃいけないと思う。心の中に置いていても、その人は浄化されない。わたしがそういう、『言葉に言い表せない葛藤』を引き出してあげなけりゃ、助からないいうか、その人を助けるつもりはないんですけど、そういうのは傲慢だから。でももしかしたら助かるかもしれない。気づかせてやる。歌とか、言葉で、それがわたしの力なんですよ。心を歌で置き換えられるという力。」

―でも、鬼束の歌を聴いてて、そのトーンの中に、諦感というか、清いあきらめみたいなものもちょっと感じるんだけど...
鬼「ああ、そうです。あきらめはしょっちゅう。わたしには、満たされるという感覚がないんです。努力しても実らない、性格が負けず嫌いなんで前はもう、がむしゃらにやってたけど、わたしは努力すると駄目になっていくタイプだってわかったんです。それからはいっつも裏口を探してる(笑)。」

―まあ、難しいことだけど、ふつうはみんなどっか具体的に幸せってことを考えるけど、たとえば、海外旅行に行く幸せとか、新しい車買った幸せとか、家族の幸せとか、でも、鬼束の場合は抽象的な幸せってものを求めてるからじゃないかな?
鬼「努力するということはその幸せに達するまでがんばるわけじゃないですか? 満足感とか、でも達しないから。やっても無駄。」

―がんばって生きるより、裏口はどこだろう? って?
鬼「でも、そういうのは悪いことだと思わない。歌の中で、がんばってとか、勇気とか、たくさん使っても本当には誰も満たされないでしょう? 少なくとも、わたしは満たされない。だからそういう歌をうたうのは、自分によくないし、相手にもよくないと思う。」

―でも冷めてるわけじゃないよね? 直接、愛って言葉は使ってないけど、人に対する歌ばかりだよね?
鬼「人生のテーマは愛ですよ(笑)。」

―ああ、うん、でも、愛ってどういうものだと思ってる?
鬼「それはまだよくわからないけれど、愛情があればうまくいく。」

―どんなときに愛情を感じる?
鬼「そのときの、わたしは気づいてないのに、『ああ、こんなにわたしのことを心配してくれてたんだ』と後で気づいたとき。そういうときに愛を感じる。自分は無我夢中で気づかなかったのに、この人は、わたしのことを考えてくれていたんだと思うと。この前、誕生日のとき、夏休みのときも地元に帰れなかったのに、高校のときはふつうにしかしゃべってなかった友だちとかからも『おめでとう』って電話があって、ああ、わたしみたいな変わりものでも、気にかけてくれている人がいるのか(笑)と思うと、すごく愛を感じた。でも失望することも多いんですよ。たとえば、約束を破られたとか、この前チクッとくることを言われたとか、でもそれが愛ということに包まれていれば、いいんです。あの、人間だからこそ、約束を破るとか、いやなことも言うわけだし、人間は、そんな完璧な動物じゃないし、まあ、比較するつもりはないけど、ロボットとかには、裏切りとか、約束を破るとか、そういうものはないけど、愛もない。」



最近、興味のあること


―ところで、音楽以外で興味のあることって何なの?
鬼「お笑い(笑)。」

―ああ、
鬼「ああいう、人を笑わせることができる人ってすごいなあと思う。志村けんさんとか、ナインティナインの岡村くんとかって、ふだんはものすごく真面目な人らしいんですよ。仕事が終わったら、すぐ家に帰って、お笑いのネタを考えているって。岡村くんなんかは、彼女も、デートとかそういうのも全然、興味なくて、ただお笑いができればいいっていうような、仕事に賭けてる感じがいい。あとは、自分。」

―自分っていうと?
鬼「ナルシストじゃないけど、自分で自分のことを知りたいという感覚がある。どんなに自分をつかもうとしてもつかめないから。好奇心。自分という謎を自分で知りたい。東京に住むようになって、いっきに好奇心がまた増えた。」

―東京の印象は?
鬼「海に浮かんだ油。」

―汚いってこと?
鬼「いや、海に浮かんだ油って、虹色してて、波の上で揺れて、光が当たったりすると、色が変わって輝いたり、ちょっとドロっとなったりするでしょ?波によって色が変わる。新宿の夜なんか、特に思う。流行とか早いし、波によって色が変わる。そういう感じ。」

―東京に来て何が面白かった?
鬼「あのね、この前、踊りの先生に、ゲイの人達のダンスショーを見に連れてってもらったんですけど、それがすごくキレイで踊りもうまくて、すごかった。」

―そういう世の中的には、まだまだマイノリティな人たちについてどう思う?
鬼「自分が好きでそうやってるんなら、いいと思う。そういう人たちには興味があるし。わたしが興味のないのは、自分がいやだと思うことをやって生きてる人。何をやってもいいし、何が何より上とか、下とかなくて、自分が好きでやってるというのがいいと思う。」



恋について


―さっき、恋愛については、のめり込まないタイプだって言ってたけど、
鬼「よく、友だちにも言われるんですけど、わたしは性格が男っぽいから、男の人に慕われるタイプだと言われるんだけど、でも、わたしとしては、わたしがホレてなくちゃいけないんですよ。相手に感じていたいところがあって、だから、君がいないと寂しいなんて言われると、サァーっと冷めちゃう。」

―男としては複雑な気持ちだけど. . .
鬼「性格的にくりかえしが嫌いだし、フラフラしてるから、すごい力でつかまえてくれないとフラっとどっかに行っちゃう。友だちに言われるんだけど、わたし、道をまっすぐに歩けないらしいんですよ。(笑)。」

―男らしいタイプが好きなのかな?
鬼「男らしいというか正直な人。わたし、男の人が泣いたりするのもぜんぜん嫌じゃないし、ただカッコつけて強がってるのは馬鹿だと思うし、思ってることを包み隠さず、はっきり言う人がいい。」

―でも、君がいないと寂しいみたいなのはだめなんだろ?
鬼「じゃなくて、君のために俺は生きてる、とか、そういうニュアンスだと、責任持てなくて。逃げたくなる。」

―人のために. . . みたいなウソを感じるんだ?
鬼「うん、きれいごとは、駄目。だって、誠実じゃないもの。」

―でも、男と女は同じ人間だけど、根本的にちがうとこもあるしなあ。やっぱり単に好きな女の子のために生きてるっていう感じも、いいもんな気がするんだよ。
鬼「そうなんですか?」

―うん、たぶん。
鬼「でも、君のために俺は生きてるっていうのにはウソを感じる。そんな、わたしみたいな変わりもののために一生を棒に振ってもらったりしても、悪いし(笑)。」

―独占欲とか、束縛みたいなものを感じるのかな?
鬼「わたし、長女なんですけど、母はわたしをすごくかわいがってくれてるけど、妹ができたとき、わたしは妹の方ばかりかわいがってるように見えて、あなたは長女なんだから、しっかりしなさいみたいな感じがあって、しかも、もともとあまり人づきあいがうまくないから、好きな人といるときは思いっきり甘えるみたいなのはあるかもしれない。」

―運命の人とかって信じる方?
鬼「うん、もう神様が遣わしてくれた人とか、思う。いやらしい意味じゃなくて、動物というか、気に入らないことがあると、ヒステリックに叫んだりするし、相手もどなるみたいな、つかみあいみたいな関係でも、離れても離れられない。そういう人が運命の人だと思う。」



デビューにあたっての抱負


――「シャイン」のレコーディングも終わって、いよいよ、デビューだけど、これからの抱負について、ちょっと話してほしいんだけど、君の歌をどんな人に聞いてもらいたい?
鬼「表面をつくろってる人。たぶん、わたしの歌なんかきらいそうな人に、陰ででもいいから聴いてもらいたい。もし、わたしの音楽を聴くことが恥ずかしいと思う人がいたら、そういう人に陰ででもいいから、聴いてほしい。」


<Interview & 構成:尾上 文>
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