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実は、鬼束は部屋でメダカを飼っている。「淋しいから」なんだそうだ。せめて、イグアナとか、亀の方がまだコミュニケーションとれると思うけど、メダカはねえ〜。
でも、それはさておき、彼女がいつも『椅子を蹴り倒して』ばかりいる気性の激しい女の子ではないということに少しホッとしつつ、今回は夢の話でも聞くことにしようと思った。意外にメルヘンチックな一面が聞けるかもしれないと思って。話は映画『ネバーエンディングストーリー』の、あのでかい犬に乗って空を飛び回る話から快調にスタート。が、しかし、徐々にダークな世界に向きを変え、カナシバリの話、そして悪魔の話へと走ってしまった。
―鬼束はよく夢見る?
鬼「どっちかと言うと見る方かな。前までは夢をノートに書きためてた。そのまま歌にしちゃったのもあるんですよ。」
―ああ、それ、作る手間、はぶけていいな。最近、どんな夢見た?
鬼「最近ですか?最近のは、『ネバーエンディングストーリー』のあの犬に乗って空飛んだ夢かな。」
―ああ、なんか、いいね。メルヘンっぽくて。好みだな。
鬼「あの大きな犬の背中に乗って、崖からグワーって降りると、下に見える地上に楽園が広がっているんですよ。『ドラゴンクエスト』のあの楽園みたいな、富士の樹海のまん中に神殿があるっていう感じの。それで、街に降りたら、犬がサーっと街を走って行って、振り向いたら、知ってる子が、顔から血だして立ってた。それで目が覚めたんですよ。」
―???悪夢?
鬼「私の夢は割とこわいのばっかりなんですよ。」
―.....。
鬼「私ね、一度、すっごい高いジャングルジムの夢見たんですよ。それ、ジャングルジムだと思ってたら、鉄のジェットコースターだったんですよ。なにもないひろーい広場にそれだけが建ってるんですよ。
ぐるぐる回って。わーっ不思議な風景だなあと思って。それから何日か経った後なんですけど、テレビ見てたら、ある外国のニュース中継で記者の人がレポートをしている後ろにある風景に似ていたんですよ。」
―ほぉー。
鬼「夢で見たのとまるで同じ風景なんですよ。私、そのTV局に電話しようと思いましたもの。」
―『未知との遭遇』みたいだね。
鬼「あと最近、夢で本のページが出て来るんですよ。で、夢の中でがんばって読もうとしてるんですよ。それで、そのページがどんどんアップされてくるんですよ。これね、もしも高校のときだったら、テストとか勉強しなくてもできたかも知れないと思って、なんか、眠る前に教科書、枕の下かなんかに入れておくと、夢の中に出てきたりして(笑)。」
―それって、どんな文章なの?
鬼「小説。」
―へえ。
鬼「だから、自分でもその夢が来たら、『あっ、きた、小説の時間だ。』って思う。」
―ってことは、夢の中にいて、起きてるんだ?
鬼「起きてます。」
―(笑)なんか、ものすごいね、それ。自分が夢を見てる自分を見てんだ?
鬼「うん、こわ〜い。」
―こわ〜いっていっても、鬼束本人のことなんだからさ(笑)。カナシバリとかはあったことある?
鬼「しょっちゅうです。」
―しょっちゅう.....。
鬼「前にすごいカナシバリにあったことありましたよ。あのぅ、ベッドに寝てて、右手が痛いんですよ。で、こわくて目をあけられなかったんだけど、ちょっと見たら、看護婦さん?」
―わああ〜。
鬼「その看護婦さんが、注射を打とうとしてるんですよ。で、ぱっと目が合ったら、ダっと走って、ドアをバタンと閉めて.....。で、ベッドの後ろのところに好きなポストカード、貼ってたんですけど、またカナシバリになって、誰か後ろをひっかくんですよ、ガリガリガリガリって.....。」
―ものすごくこわい。
鬼「夢だと思って、朝起きたら、『ツインピークス』のポストカードが落ちてたんですよ。」
―うーん、寝ぼけて自分でやってたわけじゃないよな?
鬼「してない。寝てたし。」
―猫?
鬼「飼ってない。」
―うーん、やっぱり霊感が強いのかなあ。
鬼「霊感はすごい強い子だった。前にね、中学校のとき合唱コンクールがあったんですよ。私、歌ってる途中で誰かに足を引っ張られた感じがしたんですよ。」
―誰に?
鬼「わかんない。」
―何、それ。後ろの誰かが引っ張ったとかじゃなく?
鬼「だって、私が一番後ろの列だったんですよ?」
―そうなの?
鬼「それから、私、そういう霊っぽいものがあるんだなって、その頃から思い始めた。」
―前にさ、「私の中には悪魔がいる。」って言ってたことあったじゃないか。あれって具体的にいうとどういうことなの?こわそうだから、ほんとは聞きたくないんだけどさ。
鬼「こわくなんかないですよ。音楽に関わっている時だけの話ですから。」
―ああ。
鬼「姿、形は一緒ですよね、私と。っていうか、分身の術ってあるじゃないですか、人がふたつに分かれる、その二人が合体した感じなんですよ(笑)。プライベートで友だちといる自分と、詩を書いてる自分。
下手なサイコものの映画みたいに言うと、歌ってるとき口開けるじゃないですか、そのとき悪魔が這い上がって口から出てくるっていう感じ。そんな感じです。だから詩を書くときも、もしかしたら、もう一人のその子が命令しているのかもしれない。私はひとりだけど、ひとりじゃない。」
―それは具体的にいうと、どういうこと?
鬼「ど根性ガエル!(笑)」
―(笑)おまえさあ。
鬼「なんか、あんなんじゃないけど、ああいう感じで、詩を書いたり、曲作ったり、歌っている時は、いつも一緒にいる。」
―悪魔のしわざ?
鬼「二人の私が、瞬時に入れ代わる。だって私が一人の人間だとしたら、プライベートではあんなに、お笑いのこととかしゃべるのに、なんでこんな詩や曲が書けるんだろうって、自分でも他人ごとのようにCD聴いちゃうときがある。そんなとき、やっぱり私が二人いるにちがいないって。二重人格とはちょっとちがう。二重人格って、片方が出てるときは、片方の意識がないわけじゃないですか。私には両方がいる。」
―それって、いつぐらいから意識した?
鬼「詩を書き始めてから。だから、友だちに話すのが恥ずかしかった。『その子』を見られるのが、恥ずかしかった。」
―ああ、もうひとりのな。
鬼「うん、自分の書いた曲を歌ったりして、『その子』を出したら、ぜったい嫌われるし、だから、友だちといるとき、場を盛り上げようとか気を遣っていたのかもしれない。『その子』が出てきて、気に入らない相手をボロボロに傷つけてしまったら、たいへんだと思って.....。」
―歌を歌ってるときってどんなこと考えてるの?
鬼「音程、はずさないようにしなきゃって(笑)。」
―そんなこと考えてるようには見えないけどねえ、ライヴとか見ると(笑)。
鬼「でも、やっぱり、これって時には、はいっちゃうんですよ。そういうときは音程とかどうでもよくなる。」
―歌うたってるときの、鬼束って、時々どっかいっちゃってることあるじゃないか?
鬼「ああ、あるある。」
―あういうときって、自然にいっちゃうの?
鬼「うん。」
―そういうときって全部、白くなってるの?
鬼「風景が浮かんでる。」
―どんな?
鬼「『ヴァージン・スーサイズ』って映画で、女の子が森の中を浮かんで走ってるような。茂みってイメージがある。」
―ふーん、幻想的な感じなの?
鬼「そうそう、夢というか、『ネバーエンディングストーリー』とか、あんな感じのものが、でてくるんですよ。もう、頭の中で物語ができちゃってる。」
―さっきの夢と似てるな?でかい犬、飛ぶやつだろ?やっぱり、夢見てる状態に近いのかな?例えば、インストアライヴのときなんか、お客さんが目の前にいるじゃないか。そういうときも、幻想的な夢の中に入るの?
鬼「あの、最初私、緊張するから、お客さんとか見ないようにするんですよ。ある一定の場所決めて、ほかは見ないように。けど、それをしてても飛んじゃうというか、トリップするときはトリップしちゃう。」
―鬼束にすれば、そのトリップしちゃったときが、一番いい歌を歌えたって感じなの?
鬼「うん。」
―そういうトリップする状態って、歌を歌ってる以外のときでもある?
鬼「まあ、私の生活自体がそう。」
―ハハハ。
鬼「幻想的っていうより、逃避的というか、トリップすることが多いと思うんですよ。高校時代とかは、表面上は普通に生活していて、みんなと同じ動作やしぐさをしていても、自分の内面は他の女の子よりはずっと、逃げたいとか、現実離れしてた。逃避性がすごく強かったと思う。」
―ああ、なんとなくわかる気がする。計画とかできないだろ?
鬼「あの、絶対しなきゃいけないときとかは守るんだけど、基本的に計画はたてない。」
―鬼束って感覚的だから、一日の行動って感覚に振り回されてとか、に見えるけど。
鬼「そうそう、だから体悪くなりっぱなしで(笑)。」
―今夜は起きてたいと思ったら、ずっと起きてるとかか?
鬼「最近、不眠症だから、朝の7時とか8時とかにならないと眠れない。昨日もジュエルのライヴ観ながら、詩書いてたんだど。」
―へえ、どんな詩?
鬼「歌詞じゃなくて、詩。私、時々あるんですけど、自分の気持ちが今、悲しいのか、うれしいのかなんなのか何もわからないってときがあるんですよ。そういうときはあんまり、自分の気持ちにさわらないほうがいいと思うんで。自分をほっておく。その状態が言葉を求めたときにダッーって、いっきに詩になるの知ってるから。」
―それって、どうしてそういう状態になるかって原因みたいなのはあるの?
鬼「わかんないわかんない。」
―それって過去にもあった?
鬼「しょっちゅうですよ。だって、私子供の頃からずっとそういうのあったもの。表面上普通に生活している自分とはちがって、感性に振り回されている自分がいるのに気づいてたから。でも、それは母にも言い表せなかったから、言ったことなかったし.....。」
―でも、そういう感性爆裂で生きてる人って、その性質をまわりが認めてくれないときびしいよな。孤立するというか。むちゃくちゃ人恋しくなるときってない?
鬼「あるある。」
―どういうとき?
鬼「淋しいとき。」
―それはそうだけどさ(笑)。
鬼「(笑)あの、私、『せつない』って感情がどういうものなのか、いまだにわからないんですよ。これが『せつない』って気持ちなのかっていうのが。だから友だちなんかにも『ねえ、へんなこと聴いていい?
ねえ、せつないってわかる?せつないってわかる?』って聞きまくってる(笑)。」
―せつないってどういう気持ちの状態を言ってる言葉なのかわからないってことだろ?
鬼「そうそう、だってヴィジュアル系のバンドなんか、しょっちゅう、せつないせつないって使ってるじゃないですか?(笑)『いとしい』は、わかるんですよ。『せつない』がわかんないんですね(笑)。」
―友達なんて言ってた?
鬼「なんか『キュッと』って。」
―ハハ。
鬼「みんな『キュッと』っていうんですよ(笑)。私真剣に言ってるのに、みんな笑いにとるんですよ。『あんた、なんで、そんなことばっかり聴くの?』って。私ほんと真剣に『せつない』っいうのがわかんなくて。でもそういうの、親に聞くの恥ずかしいじゃないですか。」
―恥ずかしい。
鬼「『せつない』ってなんでしょう?」
―改めて聞かれると、わかんないね。やっぱ『キュッと』かな(笑)。
まあ、また話題変えよう。興味があるものの話でもしようか?お笑い好きってのは前に聴いたけど。あとは?
鬼「入れ墨。」
―ああ、入れ墨ね。なんで、好きなの?
鬼「わかんない。でも入れ墨、彫ったら人間じゃなくなる感じがして。」
―そうか、ライオンにヒョウの柄、彫ったら、ジャガーになるみたいなもんか。それでみんな彫るのかな?
鬼「みんなはどうか知らないけど、私が彫ったら、ぜんぜん違う生き物になれそうな気がする。おおげさだけど。マリア像を彫れば、神が宿って、私を守ってくれる気がする。それくらいTATOOって大事なもののような気がする。」
―鬼束、マリア像のペンダントいっぱい持ってるじゃないか、それに、神の子供をテーマにした歌もあるし。
鬼「うん、でも、私、自分が捨て猫だって思ってんですよ。雨に打たれてたら、誰かが拾ってくれるし、おなかすいたら誰かが御飯をくれる。」
―鬼束っぽいよね。
鬼「前に一回、知り合いのお坊さんに占ってもらったことがあるんですよ。『君はとてもついてる人です。』って。『でも君は幸せにはなれない。』ってそういう心のシステムだって言われたんですよ。『どうすれば幸せになれるんですか?』って聞いたら、自分を変えない限り幸せにはなれないって。」
―どういう風に変えた方がいいって言われた?
鬼「見せ方。でも私はそれには従わない(笑)。」
―見せ方って?
鬼「もっとニコニコしろってことじゃないですか?でも自分でニコニコしたいと思わないからいいじゃないですか。なんか、ふつうの人は道でバタって倒れたら、車にひかれたりするそうなんですが、私はバタって倒れたら、一等の宝くじを拾うような運なんだそうですよ。」
―ものすごくいいね。
鬼「うん、だから、今までの人生は順風満帆なんですよ。でもその代わり、気持ちは満たされない。これで、精神まで安定していたら私すごい幸せな人じゃないですか。レコード会社にも拾ってもらえたし、友だちもいい人に巡りあったし。客観的にみたらすごく幸せ。でも、負けず嫌いだから、なんでも、これでもか、これでもかってやるんですけど、満たされたことはなかったですね。だから、詩とかでも、歌でも達成したときは、ボロボロなんですけど、洞窟はまだまだ長いって、そういう感じ。」
―ああ。
鬼「ぜんぜん光なんか見えない。たぶん、一生、光なんか見えないんでしょうね。」
―そうか。でも、満たされるって感じってどういうものなんだろうね?
鬼「お腹いっぱいで、もう食べられないって感じなんじゃないですかねえ。」
―でも、満たされない気持ちがないと、作品、作らなくなるんじゃないかな。狩りしなくなるというかさ。
鬼「私の場合は、狩りというより、逃走?例えば、精神病院に入れられているとするじゃないですか。私は、こんなとこにいなくていいと思うんだけど、いろんな人に取り押さえられて、逃げて、取り押さえられて逃げて、そのくりかえし。全部じゃないけど、あと一人の私はそういう子だと思う。テレビで観たことあるんですけど、ショッピングしないと気が変になる人とか、部屋からずっと出れなくなった人とかにいるそうなんですよ。そういう人に興味ある。」
―あぁ。
鬼「私、どうしてそうなったんだろうって、考えたんですけど、みんな『求める』ってとこで共通してるんですよね。でも、絶対求めきれなくて、死ぬまで求めてると思う。」
―そういうとき、宗教ってのが、ものすごく近くにくるんだよね。
鬼「うん、でも、私のモットーは、やられたらやりかえすっていうのじゃないですか?」
―ああ。
鬼「私、やられても、そのまま黙ってる人ってすごく嫌いなんですよね。なんで?って思うんですよ。だって、同じ心臓と同じ脳みそと同じ細胞を持ってるわけじゃないですか?同じ人間なんですよ。だから、人に従うことは大嫌い。宗教とかにしても。私、小さい頃、世界地図ってあるじゃないですか?それって、地球の反面だと思ってたんですよ。裏に何があるんだろうって思って。学校で地球は球体だって習ってがっかりしたけど、でも今も海の底には竜宮城があるって思ってる。海の底のことはまだ誰にもわからないわけだから。ずっと満たされないから、ずっと求め続けるんですよ。きっと。」
<Interview & 構成:尾上 文>
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