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転機は高校２年
守護霊、それは歌手鬼束の運命をも左右した。
高校卒業まで宮崎で過ごした。子供のころ、光ＧＥＮＪＩ（ゲンジ）
にも耳を傾ける普通の女の子だった。最初の転機は中学１年の時に訪れた。
「母親が、たまたまカーペンターズのベストアルバムを私に聴かせたんです。
今までなかった衝動が来た。ピアノ１本とか、すごくシンプルじゃないですか。
あ、私こういうのが好きなんだと思って、それから洋楽にはまった」。
学校は嫌いだった。「一応、進学校で、友達も普通にいて、
普通に学生生活を送っていましたが、
生理的に建物とか廊下の独特な雰囲気が嫌で、
遠足とか拒否して休んだことも多かった。
いろんな人がいるのに同じことを教える。
理屈みたいなのもだめだった。登校拒否ではないんですよ。
先生受けは良かったので、卒業できたんだと思いますが（笑い）」。
決定的な転機は高校２年の時だった。
やはりギター１本でシンプルに歌い上げる米女性歌手ジュエル（２６）
と出会った。友人に借りたオムニバスＣＤの１曲を聴き衝撃を受けた。
その曲はジュエルが１６、１７歳の時に作ったものと知り、
すぐにアルバムを買いに走った。
「当時、何がやりたいのか分からなかった。
それがジュエルを聴いて、もうすべて捨てちゃった。
すべてがどうでもよくなった。それから、がむしゃらに曲を書き始めたんです。
ジュエルは、ベールに包まず、むき出しなところが好き。
だからギター１本でもこんなに伝わったんだと思う。
これだ、見つけたって感じた」。
処女作「Ｃａｌｌ」は、ちょうどそんな時に生まれた。
高校の文化祭の劇で、エイズでいじめられて死ぬ役を演じた。
そこから死をテーマにした歌の世界が広がり、言葉が自然に浮かんできた。
シンガー・ソングライター鬼束ちひろが、誕生した瞬間だった。
詞や曲を作っていたことは、両親はもちろん周囲にも秘密にしたが
「父親には『１回しか生きられないから、好きにしろ』って言われた。
すごく感謝してます。よく音楽に出会わなかったら何してますか？
って言われるんですけど、私の場合あり得ないです。
音楽に出会ったのも、運命なんです」。
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来月全国ツアー
４月１０日、大阪から初の全国ツアーが始まる。
同２８日のＳＨＩＢＵＹＡ―ＡＸ（東京）まで９都市を回る。
「不安です。体力もないし（笑い）。
でも、チケットが３分くらいで完売したらしいんです。
ということは、いろんな人が楽しみにしてくれていると思う。
だから一生懸命頑張るだけです」。
アルバム同様、シンプルなステージを目指す。
「一番難しいけど一番伝わるんです」。
声や詞とともに印象的なのが、
微妙に上下動させる独特の左手の使い方だ。
目を奪われたファンも多いだろうが
「音程を取っているんです。人に言われて、
おかしいのかなと思っていた時期があったんですが、
これやめちゃうと自分の歌が歌えない気がして。
今は、ま、いいか、何言われても、と思っています（笑い）」。
宇多田ヒカル（１８）倉木麻衣（１８）などとは一線を画する存在として、
日本のトップ女性ボーカルの地位を築き始めている。
「自分の位置？ うーん。実感がわかないですね。
倉木さん、宇多田さんは素晴らしいアーティストとして評価されているから、
すごいと思いますが、私、聴かないし……。
私はジュエルに近づきたいだけ。
インソムニアは、私のスタート。
これからはいろんな音楽に手を伸ばして聴いてみたい。
声も独学だし、楽器も覚えたい。今のままじゃ満足できていないから」。
小柄でチャーミングな女の子と思ったのに、
圧倒された。確かに、彼女にはオーラを発する守護霊がいる、と思った。
少女が「変身」
所属するＶｉｒｇｉｎ Ｔｏｋｙｏチーフプロデューサーの土屋望氏
初めて彼女の歌声に触れた時、
そのあまりにも圧倒的な声の存在感に驚がくした。
初めて彼女に会った時、そのあまりにも無邪気な笑顔と少女性に、
さらに驚がくした。「こんな子供が歌っているんだと思われたら面白いね」
と彼女は笑って言った。このギャップは、狙ってはつくれない。
まるで昔のテレビ番組のヒーローの「変身」みたいだ。
楽屋で大騒ぎしている少女は、歌い出した瞬間に「ウルトラマン」
のように大きくなる。「表現者」という言葉がピッタリだ。
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