鬼束ちひろ
鬼束ちひろInterview
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8月9日、鬼束ちひろの2nd Single『月光』が発売される。もう聴いて知ってる人も多いと思うが、この曲はテレビ朝日系ドラマ『トリック』の主題歌にもなっていて、耽美なピアノ&ストリングスの旋律と鬼束の生々しいVocalが絡み合うとても幻想的な曲だ。初めて鬼束ちひろの世界に触れる人も、『シャイン』からのファンも、ともにVocalのものすごさにあらためて圧倒されるだろう。2nd Singleにして、この完成度の高さは異様だ。
鬼束ちひろがよく使う"果てがない"という言葉のように、彼女はいったい、この先どこまで上り詰めて行くんだろう。


―『月光』聴いたよ。前の『シャイン』とはまたちがった幻視的な鬼束の顔を見た気がしたんだけど、"私は神の子供"ってどういうイメージなの?
鬼「神の子供っていうと何かすごいエゴイストっぽいじゃないですか、上に立ってるみたいで。でもわたしとしては、逆なんですよ。ぜんぜん。エゴイストの逆というか。いやいや地上に堕とされてしまった子供というようなイメージなんです。なんかこの詩を見た人が神の使者って言ったんですよ。最初の二行のところで。ちがうちがうとか思って、そういう風に捉えられるのかと思って、すごいショックだったんだけど。ぜんぜん使者とかじゃなくて、いやいや堕とされたって。神の使者っていうとなんか正義とかにとらえらそうじゃないですか?でもぜんぜんちがう。もっとドロドロしたものなんですよ。」

―そっちの方にずっといたかったってこと?
鬼「いたかったというより、ほんと堕とされてしまって、こんなところでどうやって生きていけばいいのって感じ。うん。」

―言葉でいうと、陳腐になるニュアンスがあるから、とりあえず二元論で考えてさ、その堕とされる前の世界を、まあそれを神のいる世界だとするよね、そうしたら、鬼束の場合、その世界ってどんな世界なの?
鬼「やっぱり、この世界のいやなとこがないところですかね。苦しみとか。でも苦しみがないと喜びとかもないと聞くから、あったほうがいいのかな。」

―苦しみとかって具体的にいうとどういう感じなの?
鬼「泣いてしまうようなこととか、そういうのって嫌じゃないですか。やっぱり。」

―いやだよ。
鬼「でもそういうのがあるから歌ができるのかなとかも思うけど。」

―自分のすることが全部、許されている世界ってことかな?
鬼「言葉ではうまくいえないけど、風景のイメージには似てるものはある。ラピュタとか、ネバーエンディングストーリーとか。」

―誕生を扱ってる気がするから、赤ちゃんのことだと感じたけどね。ほら、赤ちゃんってさ、まだ、この世の善とか悪とかなさそうだから、自分の中から突き動かされてくるものに素直な気がするじゃないか?泣きたいときは泣いて、笑いたいときは笑って、寝たいとき寝るみたいな、そういう完全な自由?
鬼「それもあるでしょうね。でもわたし、わがままだから、今が赤ちゃんみたいな気もするし、生理的にはちがうけど、精神的には赤ちゃんに戻ったって感じ。ひとり暮らしして余計そうなった。」

―その赤ちゃんって、鬼束にはどんなイメージなの?
鬼「わがままが許される。」

―保護してくれる人がいるってこともある?
鬼「あるある、赤ちゃんって母親がいて、母親が守るっていうのが一般常識だけど、結構いろんな人に守られてるじゃないですか?ぜんぜん知らない他人だって、赤ちゃんが乳母車で泣いてたら、そこに行っちゃうじゃないですか?そしてもし、その赤ちゃんに野球ボールが飛んできたら守っちゃうじゃないですか?そういうのすごくうらやましいと思う。
人間としてすごい幸せなことだと思う。人から保護されることというのは。」

―でも保護されるというのと、束縛って紙一重じゃないか?
鬼「わたし、束縛されないから。」

―だろうな(笑)。鬼束さあ、生まれる前の記憶ってある?
鬼「生まれる前のことは思い出せない。」

―思い出せるかぎり一番、最初の記憶は?
鬼「ない。」

―(笑)ないってことないだろう。
鬼「わたし、記憶力、悪いんですよね。」

―(笑)そういう問題かなあ。
鬼「わたしってすごいんですよ。5mくらいのところにキッチンがあるじゃないですか、で、何か食べようと思って近づくと、もう忘れてるんですよ。」

―そんなあ。
鬼「いや、ほんとほんと。」

―それって、ボケっていうんじゃないかあ?
鬼「(笑)いや、冷蔵庫、開けようと思って、開けたら、何、欲しいか忘れてんですよ(笑)。」

―それ、ヤバイよ、ちょっと(笑)。でも、日常はラフでも、精神的には悩みあんだろう?
鬼「いっぱいある。ないとしても無理してひきずり出しちゃうんですよ。」

―無理してっていうのもなあ(笑)。 ところで、さっき精神的には今が赤ちゃんって言ったけど、悩みはあるが、快適な生活を送ってるってことなのかな?
鬼「猫みたいな生活。最近、アクビと武者震いがすごいんですよ(笑)。」

―まるで猫。
鬼「最初、都会だから酸素がたりないのかなとか思ってたんですよね(笑)。でもどうも猫化してる。前世も猫だったりして。どうしょうこのまま猫になったらどうしようとか、ときどき焦る(笑)。同じ動物同士だし、ありえると思うんですよ。」

―女と猫は似てるっていうしな。
鬼「猫みたいに設計図を持たない生活は性にあってて、気持ちいいならいいじゃないかって気もするけど、あんまり居心地いいから逆に不安になるのかもしれない。学校のストレスから解放されて、いろんなものから解放されて、好きなことやってると、ときどき、どこへいくんだろう?って。すごく恵まれた仕事してるんだけど、わたし、こんなとこで何してるんだろう?って突然、思っちゃう。」

―存在の不安っていうの? まあ、生きてることの証しでもあるから。
鬼「でもわたし、精神的にはすごくしっかりしてると思うんですよ。」

―じゃあ、どっから来るんだろうね? そういう不安って。
鬼「ふいに来るし。人といっぱいいても思うし、一人でいても思う。ふいに訪れるんで。」

―確かに鬼束の歌に、それ、感じるよね。夢遊病的なものだけど、このままどこ行っちゃうんだろうって。
鬼「うーん。なんかすごいぐらぐらして生きてるように思うから。」

―でもやっぱり計画とかは立てないんだろ?
鬼「いや、前はいっぱい立ててた。高校のときとかは。人に合わせなきゃとか。」

―応えるってこと?
鬼「うん。」

―そうか。話はかわるけど、歌い方は考えたりする?
鬼「歌い方は考える。技術は大事だと思うから。歌い方はいろいろ考えるんです。自分が好きで聴いてきたアメリカのシンガーソングライターの歌い方とか参考にして。でも、いざ歌い出すと全部、忘れちゃう。で、歌い終わると、『月光』って歌がわたしにこういう歌い方を要求してると感じる。『シャイン』はああいう歌い方にさせ、『月光』はわたしにこういう風に歌わせる。」

―変な質問だけど、『月光』の世界を人からなんて言われたら、一番しっくりくる?鬼束にとってさ。
鬼「もろいね。って言われたら。」

―月の光のイメージってもろい感じなの?
鬼「ううん、ベートーベンの『月光』な感じ。わたし、ベートーベンの『月光』聴いたとき、あっ、月の光ってこんなものかってわかったんですよ。月の光って、太陽に比べてわからないじゃないですか、太陽は照り付けるから肌で感じられるけど。月の光はあんまり感じ取ったことがない。でも、作った後で、辞書調べてわかったんですけど、月は人の気持ちに不思議な作用をするそうですね。ルナティクとか。」

―少し、狂気な意味合いも持ってるよ。
鬼「うん、だからこの歌は産まれるべくして産まれたと思った。妖艶っていうか揺らめいてる感じ。わたしには、この曲、もろくて荒れてる感じなんですよ。でもストリングスがすごくきれいで、荒れてる感じと、きれいな感じのハーモニーがいいんですよ。」

―『月光』でさ、鬼束ちひろの歌を知る人が前回以上に増えると思うんだ。だから、一番最初の(vol.1)のインタビューでも同じような質問したと思うけど、もう一度、聞くね。鬼束の歌を人にどう聴かれたい?
鬼「口を開けてポカンとしてて欲しい。相手も無心になってほしいから。だから、『わかる』『共感できる』とかいらないんですよ。圧倒的?人を圧倒したいから。『いい歌だね』とか、『実力派』とか言われるのはいやですね。」

―人の人生を変えたいとか思う?
鬼「ぜんぜん。好きにやってくださいって(笑)。でも、救ったり、どんな形でもいいから、それができたら、うれしい。そしたら自分も救われた気分になると思う。ときどき、よくこんな、わたしみたいな人間が生まれたもんだって気持ちになることがあるんですよ。悪い意味で。自分が悪魔だとか思うことがあって、悪いことをしてるからじゃなくて。
ふいにそう思うことがあって。外見とかじゃなく、なんて自分が醜いんだとか思っちゃう。そういう想いから、許された気分になる気がする。わたし、今までずっと生きにくかったから。」


<Interview & 構成:尾上 文>
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