鬼束ちひろ
鬼束ちひろInterview
TOP > Special > インソムニア


言葉の抽象画家
 20歳の女の子に、どうしてこんな詞が書けるのだろう。
シンガー・ソングライター鬼束ちひろ。
デビュー1年の今月7日に発売した初アルバム
「インソムニア」が、ヒットチャートで初登場1位となった。
神、腐敗、犠牲、静寂……。ズシッとくる言葉が並ぶのに、
1度耳にすると、独特の詞の世界に引き込まれる。
学校嫌いな少女が運命的に音楽と出会い、運命が導くままに、歌っている。

-----------------------------------------------------------

チャーミング!
 初めて会った鬼束は、カジュアルなシャツにジーパンの、
小柄でチャーミングな女の子だった。
聴く者の魂を揺さぶる言葉が、一体どこから発せられるの、と思ってしまった。
7日発売の初アルバム「インソムニア」が、
大手音楽情報誌「オリコン」のアルバムチャートに1位で初登場した。
当然、感激の感想を待ったが、答えは意外にクール。
「素直にうれしいけど、実感がないんです。予想つかなかったし。
インソムニアは鬼束ちひろで、もちろん私が主役のものだと思うんですけど、
周りのスタッフのおかげでもある。すごいありがたいと思っています。
1位になったけど、結構、鳴り物入りで買ってくれた方も多いと思うんですね
(笑い)。そういうのじゃなくて、長く受け継いでくれればと思います。
そういう音楽はいいものだから」。

 同アルバムは「今までの私を正直に出す」
をテーマに、高校時代など過去に作った約80曲の中から選んだ。
17歳で初めて作った「Call」も収録されている。
鬼束の原点とでも言うべき曲で「一番最初に作った曲が入るなんて普通思わない。
だからすごくうれしかった」と、これには素直に喜んだ。

 ファンから届く声は「ただ感動しました」という内容が多い。
「何々が何々だからこの曲が好き、じゃなくて『ただ涙が出ました』
とかいうのがよくあるんですけど、それがすごくうれしい。
いい音楽って絶対理屈じゃないと思うんです。
私もリスペクト(尊敬)しているアーティストは理屈なんてないから」。

 高く評価されても、浮ついたところ、迎合するところは少しもなかった。

感性で「不眠症」
 ♪I am GOD's CHILD(私は神の子供) 
この腐敗した世界に墜とされた(「月光」)

 ♪犠牲など慣れているわ 抵抗などできなかった 
血を流す心に気づかないように生きればいい(「シャイン」)

 ♪貴方の腕が 声が背中が ここに在って 
私の乾いた地面を雨が打つ(「眩暈=めまい」)

 ♪ぎりぎりの日常が壊れて行く音 
どうか貴方にも聴こえればいい(「Call」)

 鬼束の歌は、独特の詞の世界観が最大の特徴だ。

 「私にとって、詞は一番大事。詞があってのメロディーだから、
メロディーが先にできることは、いま私にはあり得ない」と言う。

 詞は「無意識の中の意識で書いている」と表現する。
「言葉1つ1つというより、全体の歌の世界っていうのが多分、
自分の中にぼんやりあると思うんです。例えば『どこ』というのは、
ひらがなの『どこ』と漢字の『何処』があるんだけど、
この(歌の)世界はひらがな、と思えば『どこ』を使う。
それは、無意識に、感覚的にやっているから、私でもどうしてか分からない」。

 一方で、書き終えたら、1歩引いて読める自分もいる。
「『月光』では、腐敗とか神とかズシンとくる言葉があって
『これキツイな』と思うけど、手直しもあまりしない。
その時一番最初に出てきたものが、一番伝えたかったことだと思うし。
それが私のスタイル。逆にそれでうそをつく方が、恥ずかしいと思う」。

 初アルバム「インソムニア」は「不眠症」の意味だが、
このタイトルも特別、意味がない。創作活動が夜行性ということも、
特別、関係ない。デビューのころから初アルバムのタイトルは、
これにしようと決めていた。「不眠症って何て言うんだろうと、
辞書で調べたら、出てきた。すぐにこの響きにほれちゃって、
別に意味なんかどうでも良くなった」。

 アルバム名だけでなく、テーマも、曲のタイトルも同じらしい。
「月光」は、曲で使われているストリングス(弦楽器)の感じから
月の光が浮かんだ。「眩暈」は、曲全体を聴いた時に、
小さいころ見て覚えていた漢字が浮かんだ。

 「私はいつも(歌の)テーマとかないんです。
出てきたものをそのまま書く。言葉が好きなんです。
多分、小説とか全然書けないけど、絵かきさんみたいに、
言葉を書いているんです。意味が分からない文章もあって
すごく抽象的だと思う。私、自分の性格もよく分かんない。
そういうのが分かんないから、曲を書いているのかもしれない。
もやもやっとした、言葉では絶対表せないものを表そうとしているから」。

 インタビュー中「歌手」も「歌うたい」という言い方をした。
「歌手ではなく……そういう感じがするんです」と語る。
理由はない。それは、鬼束の感受性の産物なのである。

 「神」の言葉が出てくることから「ホーリー(神性)な曲」
と評されることもある。
「別にクリスチャンではないですが、
悪い状況に陥っても守護霊というかすごく強い神様がついているから、
絶対引きずり出してくれると思っている自分がいる。
だから無意識の中の意識で詞を書くとき、ポロポロと出てくるんじゃないかな」。

次のページへ
SPECIAL TOP

当サイトに掲載されている写真・データは、全て鬼束ちひろご本人、及び各社に帰属します。
(C)2007 Princess Believer All rights reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送